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有明の月 宵の雲(2)
殺りんつづきもの第二話です。

初めての方は(1)からお読み下さいv

よろしければつづきから是非~^^





























有明の月 宵の雲






あれからどうやって帰ったのか記憶がない。
 
 
気付いた時には既に家の土間に立っていて、何故かかごめに肩を抱かれていた。
後日のかごめ曰く「紙みたいに白い顔色でふらふら帰ってきたからびっくりしちゃった」との事だ。
 
 
「かごめさま・・・?」
「楓ばあちゃんに頼み事があってお邪魔してたの。それよりどうしたの、りんちゃん?」
 
ゆっくり視線を巡らせると
心配そうにりんを窺う楓とかごめの顔があった。

 
だが「どうしたの」と訊かれてもりんには答えられない。
何があったのか彼女自身も把握し切れていないのだ。
 
「何でもありませ・・・。」
「何でもないって様子じゃないわよ、りんちゃん。」
「あの子に何か言われたのかい?」
「・・・・・・っ。」
 
かごめの凛とした声と楓の落ち着いた声がりんの背中を揺すぶった。
 
事と次第によってはりん一人の問題では済まないことは理解している。
何でもないなどと言って片付けてしまうことは許されない。

 
りんはまだ混乱の余波の引かない頭と心を叱咤しつつ
一部始終を語った。
それを聞き終えた楓は思いがけず優しい声音で、
 
「そうか、あの子が遂に気持ちを伝えてきたか・・・。」
 
と独り言のように囁いた。
りんは弾かれたように顔を上げた。
 
「楓さま・・・ご存知だったんですか?どうして?」
「あの子の言動を見ていればすぐに分かるさ。いつからかねぇ、あの子のりんを見る目に変化が表れたのは。」
「・・・そんな・・・。」
「それで、りんは何て答えたんだい?」
「何も言えませんでした・・・。」
 
 
りんは俯いた。

 
「それは驚いたからか?」
「はい、それもあります。でも・・・・・・。」
「でも?」
 
優しく促され、りんはあれこれ言葉を探した。
しかし上手く言葉が出てきてくれない。

すると、傍らのかごめが問いかけてきた。
 
「あの子はりんちゃんを好きだって言ったのよね?」
「はい。“女”として好きだって・・・。」
「りんちゃんはそれがどういう意味を持つ感情なのかわかってるわよね?」
「はい・・・。」
「自分に照らし合わせてみて、どう?あの子のこと同じように好きだって思える?一緒に生きていきたいと思える?」
「・・・分かりません。けど・・・。」
「けど?」
「あの人が村を出て行ってしまうって聞いて・・・胸が痛くなりました。」
「そう・・・。」
 
青年の気持ちも、かごめの言わんとしていることも分かる。
一番分からない自分自身の気持ちに混乱する中での、精一杯の正直な答えだった。
 
かごめは腰を低くしてりんと視線を合わせた。
 
「あの子が行ってしまうのは悲しい?」
「はい。」
「側にいてほしいと思う?」
「はい。」
「一緒に、ついて行きたいと思う?」
「・・・・・・。」
 
目に涙が浮かんだが、りんは唇を噛んで堪えた。

 
行ってしまわれることは悲しい。
側にいたいし、いてほしいと思う。
それなのについて行きたいかと問われたら即答することができない。

 
かごめがそっと涙を拭ってくれた。
 
「ついて行きたいとは思わない?」
「・・・・・・分かりません・・・。」
「どうして?」
「・・・・・・・・・ま・・・。」
「ん?」
「・・・殺生丸さまが・・・。」
 
 
絞り出すようにして苦しげに紡がれた名前。

 
かごめと楓は視線を交わし合った。
 
最も慕わしく思い、最も信頼を寄せる妖。
その妖の存在がりんの脳裏をよぎらなかったはずがない。
 
「殺生丸が、どうしたの?」
「・・・・・・・・・。」

 言葉が出ない。
 
 
りんはうなだれた。

 
りんを好きだと言ってくれた青年。
頭が真っ白になるほど衝撃的な告白だったが嬉しくなかった訳ではない。
 
それでも大好きな妖の端麗な姿を思い浮かべると、
「ついて行く」と答えることができない。
 
 
微かに震えているりんの肩を、楓が抱き寄せた。
 
「りん、今すぐ答えを出す必要はないんだよ。」
「・・・っ。」
「ゆっくり考えればいいのさ。そしてりんが出した結論の通りにすればいい。誰に遠慮することもない。分かるね?」
「・・・・・・はい・・・。」
「ただ、その結論はりんにしか出せない。」
「・・・・・・。」
「他の誰も、りんに代わって考えてやることはできないんだよ。」
「・・・はい。」
「よしよし、いい子だね。」
 
楓が赤子をあやすようにしてりんの肩を撫でる。
老巫女の慈愛深い掌を通して、りんの中に慰めと活力が戻ってくる。
 
りんはかごめを振り仰いだ。
 
「かごめさま。」
「なぁに?」
「かごめさまは御国ではなく、犬夜叉さまと生きる道を選ばれたのですよね?」
「そうね・・・。」
「辛い選択では・・・ありませんでしたか?」
 
かごめは笑った。
 
「りんちゃん、一点の後悔を抱くこともなく生きている人なんていないわ。」
「・・・はい。」
「でもね、今の環境に・・・ここにいられることに心底感謝しているの。」

 
選ばなかったものを振り返る時があっても。

 
「私が選んだ生き方だから。」

 
微笑みながら断言したかごめの静かな顔が強く印象に残った。
 
 



 
(そうだ、考えよう。)
 
青年も言っていた、「しっかり考えてみてくれないか」と。

青年と共に生きるか、否か。
りんが本当はどうしたいのか。

 
その結論を出せるのはりんしかいない。














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