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春を抱く

春の小さな騒動。

人里編。りんちゃん12歳くらい。
ほんの少しだけですが、「春や芽吹きし」とリンクしている部分があります。

よろしければつづきから是非~^^




































春を抱く







ようやく陽気も春らしく和らぎ、
空気全体が眠たげに瞬きをしているような、そんなうららかな日だった。
 
邪見は主の妖毛に掴まりながら腕の中の小包を抱え直した。
 
常と比べれば随分と小さな、
邪見でも片手で持ててしまうような小包だったが、
中身は妖を待つ少女が大喜びするだろう物だ。
 
顔全体を輝かせ、飛び跳ねんばかりに喜ぶ少女の姿を思い描き、邪見の気分もこの穏やかな陽気と同様に温かくなった。
 
 
「殺生丸さま、りんはさぞ驚き喜ぶことでしょうなぁ。前回の訪問より七日と離れていないのですから。」

 
いい気分のまま、ついつい主にも気さくに話しかけてしまう。
 
前方を見据えたまま飛翔する主から返答はなかったが、
春の陽気が主にも影響しているのか、平生鋭い妖気が凪いでいる。
 



 
殺生丸と邪見が僅か一週間ほどで再びりんを訪問したのには訳がある。
 
月を跨いでこそ安定したが、
季節の変わり目は気温の変動が激しい。
前回訪問した際、りんは体調を崩して寝込んでいた。
 
その為、普段は村に近寄らぬ妖が老巫女の小屋まで出向き少女を見舞った。
少女を人里に預けて以来初めてのことで、楓も邪見も大いに驚いたものだ。
 
「殺生丸さま、ごめんなさい。でもわざわざ来てくれてとっても嬉しい!」
 
りんはしきりに恐縮しながらも喜びを抑えきれず、
夜着の上に起き上がろうとして楓に止められた。
 
「まだ熱が下がりきっていないのだから無理をしてはいけないよ。」
「はい、楓さま。」
 
素直に従いつつも、りんは体を妖の方へと向けてあれこれ話し出した。

 
殺生丸さまに貰った熱冷ましの薬草あるでしょう?りん、わがまま言わないでちゃんと飲んだんだよ。とっても飲みやすかったし、それに熱もすぐに下がっちゃったの!今はまだ咳が出てるんだけど、これは治りかけの咳だから心配いらないんだって。ねぇ殺生丸さま、桜が散ってしまう前にまた来てくれる?一緒にお花見したいな。

 
熱と興奮で頬を火照らせ、
咳を交えながらもお喋りを止めないりんの額に手を乗せ、
殺生丸は一言「おとなしく寝ていろ」と告げた。
 
 


 

そして今、七日と空けず少女の元へ向かっている。

 
やはり心配なのか、桜が散る前に来てほしいという願いを叶えてやるおつもりなのか・・・。
どちらにせよ、りんには甘いということじゃな・・・。

 
邪見は幾度となく導き出した結論を再確認し、こっそり息を吐いた。
 
と同時に、真っ直ぐに目的地へ向かって飛翔していた主がぴたりと止まった。

 
「せ、殺生丸さま・・・?」

 
自分のため息が聞こえてしまったのかと背筋を冷やしながら見上げると、
主は何事かを思案するように一点を見つめていた。

 
「?」

 
邪見は首を捻った。
 
もうあと四半刻も飛べば村が見える。
ここで逡巡する理由はない。

 
「い、いかがなさいました・・・?」

 
恐る恐る問いかけてみると、背を向けたまま素っ気無い返答が返ってきた。

 
「帰る。」
「・・・・・・は?」

 
邪見が理解するのを待たず、殺生丸は即座に方向転換した。

 
「お、おま、お待ち下さい!」

 
慌てた邪見は危うく妖毛から転げ落ちそうになり、
必死でしがみ付きながら声を張り上げた。

 
「り、りんには会われないのですか?」
「・・・・・・。」
「お、恐れながら・・・・・・今日のような花見日和の日に殺生丸さまに会えれば、さぞ喜びますでしょうに。宜しいのですか?」

 
りんの嬉しそうな笑顔を思い浮かべて進言する邪見に、
殺生丸は飛翔の速度を緩めないまま答えた。

 
「今は行かぬ方が良いだろう。」
「何故でございますか?」
「・・・・・・また日を改めて来る。」

 
答えになっていない答えを受け取った邪見は、結局釈然としないまま帰路を辿ることになった。
 
 



 
その小さな騒動から数日後。
 
りんはのんびりとした足取りで跳ねるように歩いていた。
今日は珊瑚に頼まれ、子守の手伝いに行っていた。
可愛い子ども達とたくさん遊び、珊瑚や弥勒ともお喋りを楽しめた。
加えてここ最近はすっかり春らしさを感じるようになり、今もこうして見事な桜の木の下を歩いている。
顔が綻んでしまうのは当然だった。

 
(もうすぐ桜の花も散ってしまうけど・・・その前に殺生丸さま来てくれるかなぁ。この前はせっかく来てくれたのに、あんまりお話できなかったし・・・。でもわざわざ村の中まで来てくれて嬉しかったなぁ。)

 
ひんやりと心地よい手が額に触れた時の感触を思い出し、
胸の奥がじんわりと陽だまりのように温かくなった時。

 
「りんや~。」

 
右手からふと声を掛けられ驚いて振り向くと、紛れもない邪見がそこに立っていた。

 
「邪見さま!?」
「おお、具合は良くなったようじゃな。」
「うん、もうすっかり。」

 
りんはにっこり笑った。

 
「邪見さまは元気だった?今ね、ちょうど殺生丸さまのこと考えてたんだよ。殺生丸さま来てるの?いつもの所に行けば会える?」
「相変わらず質問尽くしな奴じゃ。」

 
ぼやきつつも、りんの元気な様子に安心したようだ。

 
「殺生丸さまがお待ちじゃ。早く行ってこい。」
「はい!邪見さまも後でお話しようね。」

 
りんは桜の散る前に会えるのが嬉しくて勢いよく駆け出そうとした。
すると思いがけず、
 
「あ、そうじゃった。これこれ、ちょっと待て。」
 
と呼び止められた。

 
「なぁに、邪見さま?」
「お前、三日前は何をしておったのじゃ?」
「三日前?どうして?」

 
りんがきょとんと瞬きすると、邪見は懐手をして唸った。

 
「実は三日前にお前に会いに来るつもりだったんじゃ。」
「えぇ、そうなの!?」
「もうすぐ村が見えるという所まで飛翔して来たのだが、ふと殺生丸さまは足を止められてな、しばし何事か考えておられるご様子じゃった。そして『今は行かぬ方が良い』と仰せられてそのまま帰還したのだ。」
「どうして?」
「知らんわ!だからお前に訊いておるのではないかっ。一体何をしておったのじゃ?」
「んーと・・・三日前だよね・・・。」

 
りんは眉根を寄せて記憶を手繰っていたが、
すぐにその目が晴れた。

 
「あぁ、思い出した!その日はね、楓さまと一緒に野湯に行ってたんだよ。」
「野湯?」
「村から少し離れてる所に温泉が湧いててね、りんの風邪が良くなったら湯治に行こうって楓さまが約束してくれてたの。」
「ふ、二人だけでか!?無用心ではないかっ。」
「珊瑚さまと琥珀が雲母を貸してくれたから全然平気だったよ。日も高かったし。」
「そ、そうか・・・。まぁそれならいいんじゃが・・・。」
「うん、気持ち良かったよ。・・・・・・・・・・ん?」
「・・・・・・・・・ん?」

 
(殺生丸さまが引き返したのって、りんが温泉に入ってることを知って、気を遣ってくれたんだよね。でもどうして分かったんだろう?)
 
(なるほど、殺生丸さまが引き返されたのはそういう理由だったか。りんが温泉に入ってることが分かって・・・・・・なんで?)

 
飛翔してきた足を止めて
空中で暫く何か考えて
「今は行かぬ方が良い」と引き返した、と。

 
(ま、まさか殺生丸さま・・・・・・・・・!!)

 
りんと邪見の顔が同時に真っ赤に染まった。

 
(み、見た!?お空から見えたの!?り、りんが温泉に・・・・・・・・っ!)
 
(ま、まぁりんからすればわしらは親兄弟も同然。どうという事なかろうて。・・・じゃがつい先頃も目の前で着替えることを恥ずかしがっていたし、りんとしては複雑か?・・・ん?待てよ、これってもしかして、りんに馬鹿正直に伝えてしまったことが間違いだったんじゃ・・・・・・?)

 
邪見がこの場においての「正解」をようやく導き出した時、
りんが鉄砲玉のように駆け出した。

 
(・・・せっ、殺生丸さまのっっ・・・・・・!!)
 
「待て、りん!ご、誤解じゃ!」

 
何が誤解なのか自分でも判然としないまま、大慌てでりんを追う邪見。
 
しかし今のりんに邪見の言葉の意味を考える余裕などない。
 

村外れの大木の下に悠然と座る妖の姿を認めると、
文字通り飛びついてぽかぽか拳を振るった。

 
「せ、殺生丸さま・・・・・・ひどいっ!!」
「???」

 
もの凄い勢いでやって来たと思ったらいきなり飛び掛ってきて拳を振り回し始めたりんに、
妖は不審な視線を向ける。
 
りんは顔を真っ赤にして、怒りたいのと泣きたいのと恥ずかしいのが混ざり合った複雑な表情をしていた。

 
「りん?」
「せ、殺生丸さまのバカッ!」
「・・・・・・。」←ちょっと傷付いた
「そりゃ、せ、殺生丸さまは悪くないけど・・・・・・。」
「?」
「でも・・・・・・ひどいよ・・・。」

 
語尾は口の中でもごもご消えていき、りんは顔を赤くしたまま俯いてしまった。
 
殺生丸も何が何だか分かっていないが、どうやらりんも混乱していて自分の状況を顧みることができなくなっているらしい。
座っている相手に飛び掛った為、必然的にりんは殺生丸の膝の上に座り込んでいる状態だ。
 
殺生丸は訳が分からないながらも、りんの背中に手を当て
軽く撫でてやった。

 
「ご、ごめんなさい・・・。」
「落ち着いたか?」
「うん・・・。で、でもまだ顔は上げたくない・・・。」

 
りんは消え入りそうな声で言うと、
妖の膝の上でくるりと背を向けた。
 
何を指して「ひどい」と言ってしまったのか。
いたたまれない程の恥ずかしさだけがりんの脳を刺激して、
自分でも意味の分からない言葉を口走ってしまったような気がする。
 
(殺生丸さまに謝らなきゃ。)
 
そう思うのだが、先程邪見から聞かされた事実を思い返せば更に恥ずかしさが増し
到底振り向くことなどできない。
 
妖に背を向け、葛藤を続けるしかなかった。
 

 
一方の殺生丸は、りんを追って現れた邪見から事情を聞き出した。
間の悪い老僕は主の無言の圧力を受けて事実を打ち明けざるを得ず、
その直後に蹴りをくらって綺麗な円を描きながら空中へ消えていった。
 
事情を理解した妖は、ますます縮こまってしまったりんを呆れた思いで見つめた。
 
何を恥じているのか不可解だが、
結論から言えばりんは勘違いをしているということになる。
つまり、彼が温泉云々のことを知り得たのは鋭敏な嗅覚によるもので
視覚的なものではない。平たく言えば「見ていない」。
 
それを告げてやれば少女の羞恥も消え去り混乱も鎮まるとは分かっていたが、
りんが微かに俯きつつ己に身を委ねているこの状況は不快ではない。
もう暫く勘違いさせたままにしておいても構わないだろう。

 
(・・・私に拳を振り上げた罰だな。)

 
殺生丸は娘らしい柔らかさを帯びてきたりんの体を後ろから包むようにして抱くと、
しばしの間その感触と匂いを味わうことにした。

 
二人の上に桜の花びらがはらはら降りそそぐ。

酒も肴もないが、
土産にと用意した甘い砂糖菓子を手ずから渡してやれば、
りんにとってはこれ以上ない「花見」になるだろう。






















 


兄上をぽかぽかするりんちゃんが書きたかったんですwww

この後りんの誤解を解いて二人で花見をするのでしょう。
はい、バカップルです。


読んで下さった方、ありがとうございます!

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