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夢ばかりなる 手枕に
りんちゃん風邪引き話。
13歳くらいです。
タイトルは千載集の歌から拝借しました。
よろしければつづきから是非~^^
13歳くらいです。
タイトルは千載集の歌から拝借しました。
よろしければつづきから是非~^^
夢ばかりなる 手枕に
りんが熱を出した。
しかし案じることはない。ただの風邪。きちんと水分を摂って温かくしてゆっくり眠れば、すぐに熱も下がるだろう。
尽き切りで看病するほどではない。むしろ疲れさせてしまうだろう。
だが、そうは分かっていても、やはり一人残してきた預かり子が気になる。
―――楓さま、りんは大丈夫だから、りんよりもっと大変な病気の人のお側にいてあげて下さい。
熱で気だるそうな息を吐きながらも拝むように乞われてしまい、
楓は家を後にしてきたのだった。
(薬草も煎じて枕元に置いてあるし、案じることはないと思うが・・・。)
楓は家を振り返りつつ歩みを進める。
(途中で犬夜叉の家に寄って、かごめに後を頼むか。)
そんなことを考えていた矢先、ふと目の前に影が現れた。
見慣れた小さな影と、聞き慣れてはいるが見慣れてはいない大きな影を認めた楓は、
思わず安堵の息を漏らした。
(・・・熱い・・・。)
りんはもがくようにして腕を夜着から出した。
楓が額に載せてくれた手拭いは冷たくて気持ち良いが、そこ以外の全身が燃えるようだ。
今は熱が上がっている最中だから一番辛い時なのだと自分に言い聞かせる。
楓が熱冷ましの煎じ薬を用意してくれたが、
生憎りんはその苦い薬が大の苦手だった。
なるべくなら飲みたくない。
(・・・・・・でも、辛いかも・・・。)
熱が内に篭もったような自分の体から、まだまだ悪化することが伺える。
いっそ眠ってしまえたら楽だろうに、中途半端な発熱は眠気を催すには足りないらしい。
つくづく健康のありがたさが身に沁みる。
(頑張って・・・飲んでみようかな。)
だるい体で寝返りを打ち、肘を支えにして起き上がろうと試みる。
途端に眩暈がして目の前が揺れた。
「うあっ!」
りんが枕に思い切り突っ伏したのと、
扉が無遠慮な音量で開けられたのは同時だった。
「りん!」
聞き慣れた声に呼ばれ頭を動かしてみれば、戸口に立つ邪見と目が合った。
「あ~・・・邪見さまだぁ・・・。・・・・・・あれ?殺生丸さま?」
平生は決してここまで足を踏み入れないはずの妖が姿を現し、
りんはきょとんとして二人を見つめた。
「何を夜着からはみ出しておるっ!熱があるのならちゃんと寝ておれ!」
邪見が杖を振り回して喚く。
「殺生丸さま、邪見さま・・・・・・来てくれたんだ。」
熱に浮かされながらも、嬉しくてりんはにっこり笑った。
殺生丸は無言でりんを見つめていたが、静かに足を踏み出し、中に上がり込んだ。
この美しい妖に人間の質素な住まいなど似つかわしくないが、
それを感じさせぬほど自然な動作だった。
殺生丸はここがどこだか全く気に留めていない様子で、りんの傍らに腰を下ろした。
熱で心細く思っていたところに、思いがけず大好きな妖が来てくれた。
それだけで体に力が戻るような気がして、りんは微笑んだ。
「殺生丸さま、ありがとう。」
「・・・・・・。」
妖は金の瞳でりんをひたと見つめる。
眉一つ動かさない妖だが、心配してくれているのだということは伝わってくる。
安心させたくて、りんは妖に向かって手を差し伸べた。
「りんは大丈夫だよ。」
「・・・・・・。」
妖が取ってくれた手を、大丈夫という思いを込めて軽く握る。
「ね?」
「・・・・・・。」
殺生丸は尚のことりんを見据えていたが、彼が言葉を返す前に邪見が口を挟んだ。
「りん、枕元に置いてあるのは煎じ薬か?」
「うん。あのね、楓さまが熱冷ましの薬草を煎じてくれたの。」
「それならさっさと飲めば良かろう。」
「・・・・・・。」
「何じゃ、その嫌そうな顔は?」
「だって・・・・・・苦いんだもん、そのお薬。」
口を尖らせるりんを、邪見は呆れた思いで見つめた。
「駄々をこねている場合かっ。ほれ、さっさと飲め。」
「・・・飲まなきゃダメ?」
「当たり前じゃ。良薬口に苦しと言うだろうが。」
「でも、ほら、体がだるいから起き上がるのがしんどいし・・・。」
「なに病人みたいなことを言っておる!」
「病人だもん!」
いつの間にか同レベルの言い合いになっている。
邪見は顔いっぱいに「飲みたくない」と書いてあるりんと睨み合っていたが、
ふとある事を思い出し、作戦を変更することにした。
「りん、お前、桃が好きだったな?」
「え?うん、大好き。」
突然相好を崩した邪見を不審に思いながらも、
りんは素直に頷いた。
すると邪見は持っていた包みをずいっと差し出してきた。
「ほれ、土産じゃ。」
開かれた包みから姿を現したのは、甘い芳香を放つ、紛れもない桃。
ふっくらした実は見るからに瑞々しく、りんは体のだるさも忘れて歓声を上げた。
「うわぁ、美味しそう!ありがとう、殺生丸さま、邪見さま。」
「食欲が落ちていると聞いたが、これなら喰えるじゃろうて。」
「うん!」
「今剥いてやろうか?」
「わぁ、ありがとう!」
りんに負けぬ笑顔で邪見はすかさず言い放った。
「その薬を飲んだらな。」
りんの笑顔が凍った。
「・・・・・・。」
沈黙が流れる。
「・・・・・・。」
「何じゃ、その目は?」
「・・・・・・ずるい、邪見さま。」
「我侭を言うお前が悪い。薬が苦くても直後に桃を食べられるなら後味も気になるまい。わしなりの気遣いというやつじゃ!」
「・・・・・・。」
りんは恨めしい気持ちで頬を膨らませたが、
悔しいことに邪見の言うことは正論だ。
しばし煎じ薬と桃に交互に視線を当てていたりんは、やがて観念して頷いた。
「・・・お薬、飲みます・・・。」
「やっと承知したか。」
「邪見さま、りんがお薬飲んだらすぐに桃食べさせてね。」
「わかったわかった。ほれ、さっさと起き上がれ。」
「うん・・・。」
りんは思うように動かせない体を無理に起こそうとした。
すると、背中に妖の手が滑り込み、
りんが苦しくないような体勢で支えてくれた。
「殺生丸さま・・・。」
「・・・・・・。」
妖は黙したまま煎じ薬の入った器をりんの口にあてがう。
とても薬とは思えぬ毒々しい色を湛えた液体を恐々と見つめていたりんは、
覚悟を決めて目を伏せた。
自分を支えてくれる妖の手に力が篭もり、
もう片方の手が角度を変えた気配を感じ取った刹那、苦い液体が口内に流れ込んできた。
「・・・・・・。」
眉根を寄せ、受難者のような苦悶の表情を浮かべているりんが薬を飲み干すのを見届けてから、殺生丸は器を床へと置いた。
りんは緩々と目を開くと、
苦そうな顔をしたまま、それでも笑みを浮かべた。
「殺生丸さま、ありがとう。」
「・・・・・・。」
「殺生丸さまが飲ませてくれたから、いつもよりは苦くなかったよ。」
「そうか。」
妖はりんの額に手を当てた。
平生より少し高い温度を感じさせるりんは、殺生丸の腕の中で再び目を伏せた。
苦悶の表情は消え去り、いつも見せる、安心しきった素直な表情だった。
その表情を見て、妖の瞳も和らぐ。
体調を崩していることもあるし、今日はもう少し甘やかしてやってもいい。
殺生丸は邪見が剥いた桃を受け取ると、
りんの口に入れてやった。
「美味しい。」
りんは顔を綻ばせた。
こうしていると、旅をしていたあの頃に戻ったような感覚になる。
邪見に世話をしてもらい、殺生丸に守られていたあの頃に。
「今日はいい日だなぁ。」
「・・・熱を出しているのにか?」
「熱を出したから、だよ。」
大好きな妖達が来てくれて、
大好きな妖の腕に支えられて、
大好きな桃を食べさせてもらえる。
こんな贅沢なことはない。
「殺生丸さま、大好き。」
「・・・・・・。」
「邪見さまも大好き。」
「何じゃ、藪から棒に。」
「・・・今日は、ありがとう・・・。」
幸せそうに目を伏せて呟いたかと思うと、
りんはそのまますやすや寝入ってしまった。
「やれやれ、薬も飲んだし寝入ったようだし、もう大丈夫でございますな。」
邪見はほっと息を吐いてりんを覗き込んだ。
口元に笑みを浮かべたまま眠るりんの顔はまだまだあどけなく、
殺生丸の懐で丸くなっている様子は幼子の頃のままだ。
「・・・まだ子どもですなぁ。」
「・・・・・・。」
老僕の言葉に胸の内で同意しながら、
殺生丸はりんの体を床に横たえてやった。
もう一度額に手を当て熱を確かめてから、頬を撫でる。
「帰るぞ、邪見。」
じきに快復すると見届け、殺生丸は立ち上がろうとした。
しかし、
「・・・っ。」
思いがけず軽い抵抗に遭い、見下ろすと、
りんが殺生丸の妖毛を掴んだまま眠っていた。
「こ、これ、りんっ。」
邪見が慌ててりんを揺すったが、りんは起きぬまま寝返りを打った。そして妖毛に顔をうずめるようにして寝息を立てる。
まるで「側にいてほしい」と甘えているかのように。
「・・・・・・。」
「せ、殺生丸さま、いかが致しましょう?」
「・・・・・・・・・。」
楓は野道を早足で歩いていた。
往路でばったり遭遇した妖達に後のことは頼んでおいたものの、
やはりりんのことが心配だった。
この時分では妖達もとっくに帰っているだろう。
早く滋養のあるものを作ってやらねば。
ようやく見えた質素な住まいの扉を素早く開ける。
そこで目前にした光景は予想を大きく裏切るもので、老巫女は片方しか見えぬ瞳を大きく見開いた。そして、思わず微笑んだ。
穏やかな表情のりんは妖に擦り寄って眠り、
その枕元には邪見が、
隣にはりんの額に手を置いた殺生丸がいた。
飲むかどうか案じていた煎じ薬の器も、綺麗に空になっている。
「ずっと付いていてくれたのか。」
楓は妖達に微笑を向けた。
そっぽを向いた殺生丸に代わって抗議するかのように、邪見が飛び上がって喚いた。
「勘違いするなっ。殺生丸さまが立ち上がろうとしたら、りんの奴が眠ったまま手を放さないものだから仕方なく・・・・・・。」
「その手を無理に解かずに側にいてくれたんだな。」
「なっ・・・!そ、それはそうじゃが・・・。」
「感謝するぞ。」
楓は微笑みながら預かり子を覗き込んだ。
安定した呼吸、穏やかで深い眠り、幸せそうな表情。
りんが目を覚ます頃には、熱も下がっているだろう。
りんちゃんが熱を出せば
口煩さ5割増しだけどその分すごく心配している邪見と、
見舞いの言葉なんか一言たりとも口にしないけどずっと見守る殺生丸がいる、
そんな話が書きたかったんです。
ちなみになんで桃なのかと言いますと、
風邪といったら桃缶だよね(*゚∀゚)=3という管理人の勝手な思い込みによるものです。
読んで下さった方、ありがとうございます!
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