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慟哭 2

殺りんでつづきもの。

第二話になっております。

よろしければつづきから是非~^^

 


























 慟 哭   2








大気が変化した。
 
「・・・・・・。」
 
殺生丸は鋭く目を細めた。
 
集中して感じ取らねば見過ごしてしまいそうなほどの微小な変化だったが、
桁外れに鋭い感覚を持つ大妖は油断なく周囲を見回した。
 
「殺生丸さま、人間はなんだって紅葉なんぞに興味を示すのでしょうなぁ。まぁりんの不可解な願望は今に始まったことではないですし、美しい紅葉を見せる場所の心当たりも一つ二つありますが・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 
案の定大気の変化を全く感じ取れていないらしい下僕に苛立ちを覚え、黙らせようとした瞬間、
殺生丸は素早く背後を振り返った。
 
「せ、殺生丸さま・・・?」
 
一驚する下僕をそのままに、妖は全身の神経を集中させる。
そして出し抜けに地を蹴った。
 
「あぁ!?せ、殺生丸さま~~~!?」
 
置き去りにされた邪見の叫び声に構わず、殺生丸は低く飛翔する。

 
大気が震える。
指先がちりちりする。
どこかで覚えのある臭いと同時に、明確な敵意が感じ取れた。
何より、りんの匂いがそれに混じって流れてくる。それが意味するところは明らかだ。
 
何者かが殺生丸をおびき出そうとしている。そしてその何者かの手中にはりんがいる。
 
妖は無意識のうちに奥歯を噛み締めていた。
ぎり、と音を立てて歯が軋む。

 
「!?」
 
突如右脇から飛び出してきた気配。
殺生丸は咄嗟に身を捻り、苦もなく攻撃をかわした。
 
不意打ちを仕掛けてきた敵は、くすくす笑いながら殺生丸の目の前に降り立った。
 
「さすがに鋭いねぇ・・・“殺生丸”さま?」
「・・・・・・。」
 
妖は無言で眼前の敵を睨み据える。
 
からかうように微笑む敵はたおやかな女妖怪だった。
純白の着物から伸びる腕には鏡のような物が収まっている。しかしそれは単なる鏡ではないだろう。とぐろを巻く蛇を連想させる、禍々しい気が渦巻いている。
何より妖の敵意を深めたのは、この女から漂うりんの匂いだ。
 
殺生丸は相手から一瞬たりとも目を離さぬまま、流れるような動作で爆砕牙に手を掛けた。
傍目には優雅でありながら、それは絶対の威嚇行為だ。
弁明の余地などない。立ち塞がる者は全て斬り捨てるという強い意思表示。
 
しかし女は怯まずに歪んだ微笑を向けた。
 
「おりんちゃんが心配かい?・・・忌み嫌っていたはずの人間の小娘が?」
「・・・・・・。」
「アタシが憎いかい?」
「・・・・・・。」
「アタシも同じサ。アタシも憎い。憎いからこうしてここへ来た。あんたに会う為にね。」
 
女はふぅっと息を漏らした。
左手に鏡を抱えたまま、右手を殺生丸に向かって差し伸べる。
 
「覚えてるかい?この匂い。」
 
妖は目を細める。
 
敵意を含んだ臭い・・・どこかで覚えのある臭い。りんの香りと共に漂ってきたそれが、この女から強く発せられている。
しかし――――。
 
「お忘れか?昔の女の匂いと同じものなんだけど。」
「・・・・・・。」
「まぁ、あんたにとっては単なる使い捨ての女だったんだから、忘れて当然か。」
「・・・・・・。」
「名を告げたって思い出せないんだろうね。」
「・・・お前は・・・。」
「だから復讐する。人間の小娘なんかに現を抜かしている、腑抜けちまったあんたにね。」
 
見て御覧よ、と囁きながら鏡を持ち上げる女の顔が残忍に歪んだ。
 
「あんたに恨みを抱いている輩は掃いて捨てるほどいる。遊ばれて捨てられた女だけじゃない・・・大切な者を無残に殺された者、消えない傷を負わされた者、自尊心を完膚なきまで粉砕された者・・・恨みに染まった念は数多ある。これはね、そうした奴らの怨嗟の念を取り込んで作り上げた鏡なのサ。」
「怨嗟の念だと・・・?」
「アタシごときの妖力じゃ到底あんたには敵わないからね。でも、こうして何百もの妖怪の念が集まれば話は別だろ?」
 
鏡に渦巻く臭気が増す。
その後ろで笑む女は、極上の菓子を前にしているようにうっとりと唇を綻ばせた。
 
 
「試してみるかい?」

 
刹那、鏡が閃光を放った。
 
その鋭利な光と胸が悪くなるような臭気に圧倒され、妖は思わず喉の奥で呻く。
鏡から発せられる暴力的な力が殺生丸に襲い掛かった。
 
不可視の手で己の内側を抉られるような感覚。
無意識のうちに声にならぬ咆哮を上げた妖は、己の本能が警鐘を打ち鳴らしていることを自覚した。
この女と鏡の危険性を本能は的確に感知している。下がれ、と本能が警告する。
それでも妖は一歩も退かなかった。刀の柄にかけた右手に筋が浮かぶ。
 
この女が立ち塞がる道の先にはりんがいるのだ。
 
己の姿が本来の姿―――獣の姿に近付いているのがわかった。恐らく双眸は紅く染まり、頬に走る紋様も濃くなっているに違いない。
 
「・・・・・・無駄だよ。」
 
女が薄笑いを浮かべ、慈しむような手つきで鏡を撫でた。
 
力の増した鏡の光が妖の胸を真っ直ぐに貫く。
不可視の手が心の蔵を鷲掴みにする。
同時に、妖の内から何かを引き剥がしていった。



 
「・・・いい姿だこと。」
 
膝をついて崩折れた男を前に、女は甘美な笑みを浮かべた。
倒れ伏さなかったのはこの男の最期の矜持か。しかし意識はないはずだ。
 
妖艶な笑みを浮かべたまま、眼(まなこ)だけは残忍な輝きを湛え、男を見下ろす。
 
「思い知らせてあげるよ、殺生丸・・・。」
 
他を斬り捨て、壊し、傷つけながら歩んできた男。そうして血塗られた道を歩きながら、顧みることさえしない非情な大妖。
だから思い知らせてやる。捨ててきたもの達の思いと叫びをその身に刻んでやる。
絡みつく怨念に足をとられ、何より大切なものを守り切れない苦しみを味わえばいい。
その時初めて、この男は過去の業を思い知る。何もかも己のせいなのだと悟るだろう。
 
悔やめばいい。声が嗄れるほど鳴き、狂気に堕ちるほど己を呪えばいい。
 
「あんたはどれだけ極上な声で鳴くだろうね、殺生丸・・・。」

空を仰いだ女の美しい瞳は、
血塗られたような赤に染まっていた。












 
 
「う・・・。」
 
意識がもどかしげに覚醒していく。
頭が割れるように痛むのは何故なのか。
手足が痺れて思うように動かせないのは寝ぼけているせいか。
 
薄目を開けて状況を確かめようとしていたりんは、不意に髪の毛を引っ張られ悲鳴を上げた。
 
「お目覚め・・・?」
 
髪の毛を引っ張った人物は、一瞬ぎょっとして目を瞠るほど青白い顔色でりんを凝視していた。
 
重たげにまとめられた漆黒の髪、純白の着物と緋色の襦袢。
見る者を惑わせるほどの美貌。
 
(この人・・・さっきの・・・?)
 
まだ覚醒し切らない意識でりんは必死に考える。
 
川辺でりんに話しかけてきた女は妖怪だった。
彼女に掴みかかられたところで意識が途切れたということは、
恐らくりんは「囚われた」ということなのだろう。
そして目の前で髪の毛を掴み上げているこの女は、襲ってきた女と同一であるはずだ。

それなのに・・・どうも目の前の女に違和感を覚える。 
腑に落ちない思いを抱き僅かに眉を顰めた時、女は汚いものを振り払うようにしてりんを突き飛ばした。
地面に転がったりんは小さく叫び声を上げたが、手足は相変わらず動かない。
痛みを逃がそうと体を丸めたところで、抑揚のない声が降ってきた。
 
 
「お前、本当にただの人間の小娘なのね。」

 
顔を上げると、底冷えする瞳と目が合った。
負の感情を煮詰めたような漆黒の瞳に見下ろされ、背筋が粟立つ。
 
「どうして?どうしてこんな貧相な娘なのかしら。どこが良かったのかしら。おまけに人間じゃないの。おかしいわ。こんなの本当じゃないわ。」
 
瞬きもせずにりんを見据えたまま呟き続ける様は鳥肌が立つほど不気味だった。
 
距離をとりたくて体を動かした途端、再び髪の毛が引っ張り上げられ顔が否応なく仰向けにされる。
その先には壊れたような笑みを貼り付ける女妖怪がいた。
 
「ねぇ、私とお前と、どちらが美しいかしら?」
「は、離して下さい。」
「あの御方に本当に愛されるべきなのは、それがふさわしいのは、どちらなのかしらね?」
「何を・・・。」
「聞くまでもないわ。」
 
女の笑みが瞬時に消えた。
後に残ったのは能面のような白い貌。
 
虚ろな瞳が間近に迫るのを見て、りんは恐怖に駆られ叫び出しそうになった。
 
「私よ。」
 
平たい声が断言する。
 
「あの御方にふさわしいのは私なのよ。お前は邪魔だわ。わかるかしら?不要なの。」
「な・・・・・・。」
「ねぇ、今までどんな風に愛されてきたの?」
「何を・・・。」
「貧相で汚らわしいお前が愛されるなんてありえないわ。どうやってたぶらかしたの?何をしたの?」
「だから、何の話ですかっ?」
 
女の様相は震え上がるほど不気味だったが、
こう一方的に話を進められては埒が明かない。
少しだけ声を強めると、同時に勇気が戻ってきたような気がした。
 
しかしその勇気も女が発した次の言葉で凍りついた。
 
 
「殺生丸さまのことよ。」

 
りんは絶句した。

 
「決まってるでしょう?他に誰がいるの。体だけじゃなく頭まで貧弱なのね。ますます汚らわしいわ。」
「殺生丸さま・・・?」
「そう。誰よりも強く、美しく、誇り高いあの御方よ。」
 
女の唇が綻ぶ。
だが秀麗な顔に浮かぶ柔らかい微笑みは、りんに視線を戻すことで呆気なく消え去った。
 
「それなのに、お前ごとき人間の小娘があの御方に愛されるなんて・・・許されていいはずないでしょう?」
 
女の瞳が見る見るうちに赤く染まる。
言い募るほどに狂気が増していく。
 
「許せない・・・。こんな小汚くて、無力で、ちっぽけで、気品の欠片もない女があの御方に慈しまれるなんて、愛されるなんて、絶対に許せない・・・・・・。お前がただの肉塊になれば目が覚めるのかしら?」
 
言いながらりんの首に手を掛ける。
ぎりぎりと音を立てて締め上げてくる女に一片の迷いもない。
ただひたすら憎悪が在るだけだ。
 
気道が塞がれ喉が潰されていく。
りんは胸の内で悲鳴を上げた。
 
抵抗したいのに手足が痺れたまま動かない。
助けを呼ぼうにも息すら吐き出せない。
薄れゆく意識に縋るように必死で妖の名を呼び続ける。

 
・・・・・・その時、
 
「およしよ、棗(なつめ)。」

 
凛とした声が響いた。
 
 
 











 
――――声が聞こえる。
 
どこか遠くで己を呼ぶ声。
魂の限りに叫ぶ声。
 
それが少女の声だと気付いた刹那、妖の意識は覚醒した。
瞬時に体を起こし戦闘体勢をとる。しかし突如襲ってきた猛烈な眩暈に思わず膝をついた。
 
「くっ・・・・・・。」

何が起きたのか理解できない。
何故こんなにも体が重いのか。
力が入らず、吐き気を催すほどの頭痛がする。こんなことは初めてだ。
 
己の体に感じる違和感の正体がつかめず、殺生丸は眉根を寄せた。まるで五感が全て消え去ってしまったかのようだ。
 

「随分いい男になったじゃないか、大妖さん。」
 
前方から響いた声に素早く顔を上げる。
 
先程の女妖怪が美しく含み笑いをしながら鏡を撫でている。
鏡の纏う臭気が濃くなっているように見えるのは、目が霞んでいるせいなのか・・・。
殺生丸は腑抜けた体に力を込め、全身を殺気立てた。
 
「・・・・・・何をした。」
「ふふ、自分の身に何かが起こったことくらいは気が付いたようだね。」
 
女は優雅に首を逸らし、空を見上げた。
 
「そろそろ日が没する・・・。」
 
呟いて背を向ける。
 
妖は目を鋭く細めた。
今あの背に飛びかかり切り裂いてもいい。
そう思った瞬間、女が首だけ捻ってこちらを見た。
 
「こうして背中を晒して無防備だと思うかい?そう思っているならどうぞ斬りかかればいい。そして“おりんちゃん”の匂いを追って助け出せばいい。造作もないことだろう?」
「・・・・・・。」
「おりんちゃんの匂い、追ってごらんよ。」
 
何を企んでいるのか・・・。
女の意図を判じかねて睨み付ける。
そして気付いた。意識を取り戻した時から感じていた違和感の正体に。
 
 
りんの匂いがわからない。

 
それどころではない。目の前にいる女の臭いすら判別できない。
この感覚は奈落の体内にいた時のものと酷似している。否、それ以上の感覚の封印。

 
右肩に触れればそこにあるはずの妖毛がなく、
己の手を翳せば鋭く伸びた爪がない。

 
「貴様――――。」

 
何が起きたのかを理解した男は低く唸る。
が、視界全てを歪める強い眩暈に襲われ、咄嗟に地に手をついた。
 
その拍子に肩を流れる長く美しい髪。
 
獣の姿のままに輝いていた白銀の髪は、
今漆黒に染まり男の肩を撫でた。

 
まるで人間のように――――――。




























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こんばんは。
いつも楽しく読ませていただいてます。
慟哭 いいですね~。
ぞくぞくします。
どうなるんだろう。
続きがとても楽しみです。
  • poko さん |
  • 2010/12/12 (23:53) |
  • Edit |
  • 返信
初めまして!
pokoさん、いらっしゃいませ^^
嬉しいコメントをいただけて昇天しかけました。本望です。
慟哭は予想以上に長い話になりそうですが、
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
兄上に頑張ってもらいます(笑)
またお時間のある時に是非遊びにきて下さいv
それでは、癒しコメントありがとうございました!
  • りこ さん |
  • 2010/12/14 (22:04) |
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