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空の下

今書いている殺りん話が予想より長引いており
まだ更新できそうにないので、
代わりに小話を書いてみました。

下書きなしの一発書きですが、
よろしければ是非~^^


 

































空の下






人間の少女の待つ野原に、妖はふわりと降り立った。
そして僅かに眉をひそめる。

平生ならば妖が帰還するなり「殺生丸さま!」と叫んで駆け寄ってくる少女が、
ころりと仰向けに寝転がっていた。
のびのびと手足を伸ばして大の字になり、寝ている様子ではないが目を瞑り、何が嬉しいのか一人でにこにこ微笑んでいる。


「・・・・・・。」


いつものことながら、相変わらず不可解な小娘だ。

少し離れた場所では邪見が頭を垂れて眠りこけており、
少女の側に控えていた双頭の妖獣だけが主の帰還に気づいて目を上げた。

阿吽を目で制して少女の元へ歩み寄る。
少女は目を伏せたままにこにこしている。


「・・・何をしている。」

声をかけると少女はぱっと目を開けた。

「あ、殺生丸さま!おかえりなさい!」

仰向けになって見上げてくる嬉しそうな笑顔はよく見知ったりんのもの。
妖は無意識のうちに目を細めた。

りんはぴょんと飛び起きると、妖に駆け寄り手を取った。

「殺生丸さま、こっち。りんの隣に座って。」
「?」

嬉しそうに笑う少女を前に断る理由もなく、言われるままに手を引かれ腰を下ろす。
ただし花冠をかぶってほしいだの髪の毛を結んでもいいかだの、
酔狂な意図が読み取れたらすぐ立ち上がる気でりんを見つめる。

りんは妖のすぐ隣に座り込み、
邪気のない笑顔を向けてきた。


「でね、こうするの。・・・・・・えいっ。」

ころん。


りんは勢いをつけて仰向けに転がった。
そして先刻と同じように大の字になり、呆気にとられる妖を明るい瞳で見上げた。


「ね?」


何が「ね?」なのかまるで意味がわからない。


「・・・何の真似だ?」


嫌な予感を感じながらも問うと、りんが一番の笑顔になった。


「一緒にお昼寝。」
「・・・・・・。」


無言で立ち上がりかけた殺生丸の動きを察したのか、
りんが素早く右手にしがみついてきた。

「今日はお天気が良くて暖かいから、こうして仰向けに寝ると気持ちいいよー。」
「・・・それがどうした。」
「殺生丸さまも一緒にお昼寝したら楽しいよ。」
「何が楽しい。」
「りんは楽しいもん。」

噛み合ってるのか噛み合ってないのか微妙な問答が繰り広げられる。

殺生丸はしがみ付くりんを振り払おうと右手に力を込めた。

「邪見を起こせ。」
「お願い、ちょっとだけ。」
「発つぞ。」
「せっかくお昼寝日和なのに・・・。」
「お前はいつもだろう。」
「・・・・・・はい。」

神妙にうなだれたりんが右手から離れる。
殺生丸は柄にもなくほっとして息を吐いた。

・・・・・・その刹那。


「えいっ。」


小さくて柔らかい何かが全身でぶつかってきた。

完全に不意を突かれた妖の上体が後ろに傾く。
右肘で咄嗟に体を支えると、
小さくて柔らかい“何か”が声を上げた。

「惜しい、あと少し。」
「・・・・・・。」

殺生丸は胸元にぶつかってきた“りん”を呆れたように見下ろした。

「どけ。」
「やだ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

こうなると妖の選択肢は2つ。

りんを払い除けて邪見を蹴り起こし旅路を再開するか、
りんに少し付き合ってやった後で邪見を蹴り起こし旅路を再開するか。

結果は変わらず工程もさほどの違いはない。

ただ、人間の小娘の言いなりになって仰向けに転がるのは気分の良いものではない。
しかし珍しく食い下がるりんを無下に払い除け、がっかりする顔を目の当たりにするのも、気分の良いものではない。

「・・・・・・。」

妖がらしくもなく逡巡していると、
りんが胸の上でくるりと向きを変え、空を見上げた。


「殺生丸さま、お空ってどうして青いのかな。」
「・・・・・・。」


相変わらず突飛な発想でものを尋ねる娘だ。

しかしりんはお構いなしに喋り続ける。

「お空の果てってどこにあるのかな。お空の上には何があるのかな。どうしてお空は落ちてこないのかな、羽が生えてるのかなぁ。ねぇ殺生丸さま、お空っていつもあるのに、いつも見てるのに、不思議だよね。」

お前の方がよっぽど不可思議だ、とは言わずにおく。

「阿吽に乗って空を飛んでもね、触れた気がしないの。それにどこまで飛んでも全然終わりが来ないんだよ。」
「・・・・・・。」
「でも空の色って綺麗だよねぇ。」
「・・・・・・・・・。」

邪気も脈絡もないりんのお喋りを聞いていると、
急に何もかもがどうでも良くなってきた。

肘を外して仰向けになると、りんはあっさり胸の上から転がり落ちた。

反射的に手を伸ばして背中を支えてやると、
りんは嬉しそうに礼を述べ、妖の隣に寝転がった。


大妖と少女。二人並んで空を見上げる。


りんは目を細めた。

目の前に広がっている蒼が目を刺すが不快ではない。
雲ひとつない空は果てしなく遠い存在のように見えるが、
その反面自分が空に抱かれているような錯覚も覚える。

こうして並んで見上げる空は、妖の瞳にどう映っているのだろうか。
りんの見る空と同様に深く、果てしなく、美しく映っているのだろうか。

聞いてみたい気もするが、
穏やかな陽気が心地よくて知らず知らずのうちに瞼が下りてくる。


「殺生丸さま・・・あのね・・・。」
「何だ。」
「・・・りん・・・・・・知らなかった。空が・・・こんなに・・・・・・・・・。」

紡ぐ言葉は口の中で消えていき、
りんの意識も穏やかなまま空に溶けてゆく。

「・・・・・・。」

傍らで寝入ってしまったりんを見て、妖はため息を吐く。

実に気持ち良さそうに眠る少女を見ていると
つくづく不可解な生き物だと思う。
空など見上げれば嫌でも目に付く当たり前のものであり、
いちいち感嘆したり不思議がる人間の下らない感情は理解に苦しむ。

それでも、以前は一笑に付す価値すらないと思えた下らない感情も、
りんが口にすると何故か耳を傾けてしまうものだった。


“空の色って綺麗だよねぇ”


殺生丸は空に目を転じた。

凪いだ空の蒼は優しく、
全てを包むようにどこまでも広がっている。

こんな風に空を仰いだことなど一度もない妖は、再びりんに視線を戻す。


“今日はお天気が良くて暖かいから、こうして仰向けに寝ると気持ちいいよー”


悪くない、と心の中で返事をすると、
りんは眠りながらふわりと微笑んだ。


雨を降らせ雷を落とし雪で全てを凍てつかせる空は決して穏やかなだけのものではないが、
こうして少女が見上げる空はいつでも凪いだものであればいいと、
少女を優しく包み込むものであればいいと思う。

小さく寝返りを打ち殺生丸の懐で丸くなったりんの幸せそうな寝顔に目を細め、
妖は静かに少女の頬を撫でた。
























 



殺りんお昼寝話。兄上は寝てませんが(笑)

ほのぼのを目指してみました。

この二人が並んで横になってる図ってすごく和むと思いませんか(*゚∀゚)=3
間に入りt・・・・・・あ、兄上に殺されますね^^;


読んで下さった方、ありがとうございます!

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