忍者ブログ

いらっしゃいませ! 少しでも楽しんで頂ければと思っております(^^) 初めましての方はabout meカテゴリの記事をお読み下さい。

   
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

慟哭 4
殺りんでつづきもの。
第四話になります。

つづきから是非~^^





































 慟 哭   4









暗がりから姿を現した棗(なつめ)は、先程よりも更に青白く見えた。
漆黒の瞳が虚ろに彷徨ってりんを捉え、同時に憎悪の色が浮かび上がる。

氷雨(ひさめ)が驚いたように切れ長の目を瞠った。


「棗、あんたどうして・・・?」
「もうここにいる必要はないことを言いにきたのよ。言ったわよね、お前は不要だって。この小娘には一刻も早く消え去ってもらいましょう。できないなら私が消してあげる。」

美しく整ってはいるが能面のように生気のない貌をりんに向ける。

りんが後ずさるのと同時に、氷雨が素早く立ち上がった。

「あんたは寝ておいでって。アタシに全部任せてりゃいいんだから。」
「・・・だってこの小娘が生きている限り、あの御方は惑わされたままなのでしょう?」
「それは違・・・・・・。」
「見て御覧なさいよ、姉さん。」

棗はすらりと伸びた指でりんを示した。


「この小娘、泣きもしないじゃない。」


その指で直に背中をなぞられたかのように、りんの背筋に悪寒が走る。
見下ろしてくる端正な顔が歪んだ。


「・・・・・・腹が立つわ、その態度・・・・・・。随分と余裕があるじゃない。必ず助けがくると確信しているかのような、その顔。虫唾が走るわ。」
「・・・・・・。」
「愛されてる自信が大いにあるようね。」

りんは口を開いた。
だが言葉を発する前に喉元を掴まれ、呼吸もろとも押し潰された。

棗の瞳が朱色に染まる。

氷雨が慌てて走り寄った。

「棗!」
「大丈夫よ、姉さん。まだ殺しはしないわ。」

棗はうるさそうに姉を押しのけると、りんの全身に視線を這わせた。

痺れて動かすことのできない手足、土汚れが付着し着崩れてしまった小袖、まとまりなく跳ねている黒髪、そして見開かれたままこちらを見返す大きな瞳―――――。


不意に弾けるような大声を上げて棗が笑い出した。

りんの喉に手を掛けたまま、
狂気のように赤い瞳を細め、
おかしくておかしくてたまらないと言うように、
上半身を丸めて嗤っている。

空気を切り裂くような嗤い声を前に、りんの思考が凍りついた。
恐怖で全身が震える。

やはりこの女は尋常ではない。


暫く壊れたように嗤い続けていた棗は、
やがて目尻の涙を拭いながら半身を起こした。


「・・・お前、憐れね。」
(憐れ・・・?)
「自分が辿る末路を全くわかってない。それなのにひたむきにあの御方を慕う様が恐ろしく滑稽だわ。」
(末路・・・?滑稽・・・?)

りんの戸惑いを察したのか、
棗は不気味なほど優しげに微笑した。

「わからないなら教えてあげるわ、お前の末路。」

女妖怪は唇をりんの耳元に寄せ、
言葉を一つ一つ刻み込むように甘く囁いた。


「今はどんなに愛されているつもりでも、お前はいつかあの御方に捨てられる。そう遠くない未来に、必ず。」
「・・・・・・。」
「考えてみなさい、お前は今でこそあどけない少女の姿であの御方を惑わしているけれど、それはほんの一時―――風が吹き過ぎるよりも僅かの間のこと。月日がほんの少し流れれば、お前は老いるのよ。」
「・・・!」
「醜く老いた人間の女が、あの美しい殺生丸さまに釣り合うと思う?いいえ、それ以前に愛されると思う?」
「・・・・・・。」

りんの唇が震えた。
その様子を見下ろし、棗は満足そうに目を細めた。

「お前、自分がどんなに惨めな末路を辿ることになるか、ちっともわかっていなかったのね。」
「・・・・・・。」
「刹那の時しか生きられない無様な人間にふさわしいわね。」

ずっと能面の如く無機質だった棗の顔に初めて生き生きと浮かぶ喜色を見つめながら、
りんは唐突に昨夜の夢を思い出していた。



そうだ、あれはりんが幼かった頃・・・人里に連れ戻されそうになった時の夢だった。
そこで殺生丸さまにお別れを言われる夢だった。
 
 
 
“お前は人間だ”
“感情も、生き方も、寿命すら隔たっている”
“二度と私の前に現れるな”

 
 
蘇ってきた夢は生々しい痛みを伴っていた。
胸が締め付けられ、心臓がぎゅうっと縮まる。


――――この人が予言する通り、いつかりんも捨てられるのだろうか。
夢で見たように、二度と顧みられることもなく忘れ去られてしまうのだろうか。
りんを置いて、歩み去っていってしまうのだろうか。



「棗、もうおよしよ。」

氷雨の静かな声が響いた。

「そんなことをおりんちゃんに告げたって仕方ないだろう。」
「あら、だってこの小娘が身の程も弁えずにいるから、現実を教えてあげただけよ。」
「じゃあ満足したろ?もうおやめ。」

りんの喉を締め付けている棗の手を、氷雨がゆっくりと解いた。
解放された喉元を押さえ、りんは口を開いた。

「一つ・・・教えて下さい。」

氷雨も棗も驚いたようにりんを見た。
りんは真っ直ぐに見つめ返す。

「どうしてこんなことをするんですか?」
「・・・どういう意味?」
「りんが近い未来に殺生丸さまに捨てられるなら、こんなことをする必要なんてないじゃないですか。」

“復讐”の必要性など、どこにも。



「・・・つくづく癪に障る小娘ね。」

棗の声が低められた。
瞳に宿っていた生気が消え、再び虚ろな色を灯す。

「もう一度締め上げられたいの・・・?」
「棗、やめな。この子の言うことも一理あるよ。」

氷雨は咄嗟に妹の肩を掴んだ。

「あんただって人間なんて取るに足らない存在だって、いつも鼻先で嗤ってたじゃないか。」
「・・・・・・。」
「だったら、そんな人間の小娘なんて憎む対象にすらなり得ないはずだろ?」
「・・・そう・・・ね。でも、この娘だけは許せないのよ・・・。」
「どうしてサ?」


不意に棗の顔が歪み、ひび割れたような声が喉から溢れ出た。
 
 
「人間だからよっ!」


絶叫が静寂にこだまする。
 
仮面は剥がれ落ちた。
 
能面のような表情から一気に感情を爆発させた悪鬼の形相へと変わる。
そこから見え隠れするのは相反する二人の棗。
理性と感情が、正気と狂気が、彼女の中で戦っているように見えた。
 
「どうして?どうして人間なの?あんなに・・・憎んで、嫌って、軽蔑していたのに・・・どうしてこんな・・・小娘なんかにっ・・・!」
 
喰いしばる歯の隙間から漏れ出る憎悪。
りんはそれを呆然と見つめた。
 
 
“どうして人間なの?”

 
その言葉に頬を打たれたような気がした。

 
「私だって・・・分かってたのよ・・・。」
 
棗の声が低くなる。
 
「あの御方の隣に立つのは、私のような遊び女なんかじゃなくて、立派な家柄と妖力を備えた美しい妖怪じゃないといけないんだってことくらい、最初から理解していたのよ。」
「・・・・・・。」
「だからあの御方が去った時も、いずれ来るべき時が来ただけだって自分に言い聞かせていたわ。あの御方が選ぶ女性は、きっと非の打ち所のない素晴らしい女妖怪だろうって思ってた。それなら私なんかが敵うはずないでしょう?」
「棗・・・。」
「なのに・・・それなのに・・・・・・。」
「棗っ!」
 
憎悪の炎が再燃したのか、棗の顔が醜く歪んだ。
 
「私より卑しい出自で、ひ弱で、美しさも品位もなくて、おまけに人間なのに・・・あの御方が何年もお前を庇護し、この世の至宝のように大切にして・・・こんなことってないわ。悲しみを耐え忍んで身を引いた私はどうなるのよっ!」
 
獲物に飛び掛かる獣のような勢いでりんに詰め寄り胸倉を掴んだ棗を見て、慌てて氷雨が間に割り込んだ。


「落ち着きなさいな。この子が人間なのはこの子のせいじゃないだろう?」
「人間だから許せないのよ!」
 
血の凍るような声で棗が怒鳴った。
彼女の壊れてしまった表情に本音の色が浮かんだ。
 
「だって悔しいじゃない!お前が妖怪なら、あの御方に釣り合うような秀でた妖怪なのだろうと自分を納得させることができた。諦めることができた。でも人間なのよ!あの御方があれほど憎んでいた人間なのよ!つまり、それは紛れもない『お前自身』があの御方にとって特別だって証じゃない!」
「・・・りんは・・・。」
「地位も妖力も関係ないのよ・・・そんなもの何一つ持ってなくても、『お前自身』が大切なのよ。嫌悪している人間だって事実すら見逃せてしまうほどに。そんなのずるいじゃない・・・殺したいほど憎むのは当然でしょ?」
 
棗がうっすら微笑んだ。
 
「だからおとなしく死んで?」
 
翳された手には鋭い爪が光る。
見下ろしてくる瞳は真っ赤に染まっていた。
 
その燃えるような朱色を見つめ返しながら、りんの思考が混乱したように巡る。
 

りんはいつか殺生丸さまに忘れられてしまう憐れな存在だと、この人は言った。 
・・・違う。そもそもりんと殺生丸さまは恋人じゃない。りんは殺生丸さまに愛されているわけじゃない。
でも、りんは殺生丸さまにとって『特別』・・・?
だからこの人はりんを憎んでいる?そして殺生丸さまを愛している?復讐しようとしている?誰に?
 
・・・何が問題なのか、どれが原因なのかわからない。一体どこに目を向ければ出口が見えるのだろう。
 
 
ぐるぐると回る思考の渦に呑まれつつも、あぁでもこの人は妖怪なんだ・・・と呟く小さなりんが胸にいた。
 
 
氷雨が庇うようにしてりんの肩を抱く。
そんな姉の行動を目の当たりにしても何も感じないのか、棗は薄く笑ったままだ。
 
「本当はお前もわかってるんでしょう?」
「・・・?」
「あの御方と自分がいかに不釣合いか、妖と人間の間にどれだけの隔たりがあるか、本当はわかってるはずよね?」


“感情も、生き方も、寿命すら隔たっている”

 
「お前はあの御方に添い遂げることはできない。たとえ今はどんなに深く愛されていようとも、早く老いて死ぬだけの、一時的な玩具よ。」
「・・・・・・。」
「憐れね。」
 
吸い込まれるようにその笑みに見入りながら、りんは遠い昔に村人達から向けられてきた感情を思い出していた。
 
侮蔑、嫌悪、嘲笑――――。
 
それらの感情を滲ませた目が、値踏みするようにりんを見下ろした。
 
 
「ねぇ、どうしてあなた人間なの?」

 
ずっと「お前」と呼び続けてきた女の、絡みつくように甘ったるい「あなた」という響き。
そこに潜められているのは、女として対等な問いかけであり、その分だけの強い憎しみの情でもある。
 
恐怖で唇を震わせながらも、りんは唐突に悟った。
 
 
 
どうしてりんは人間なのか。いや、むしろ人間でなければ良かったのに。
 
問題の根本はそこなんだ。

 
 
それに気付くと同時に腹の底から何かが込み上げてきた。
明確な怒りでも悲しみでも悔しさでもない、ただただ絶叫するような想い。
 
今まで女の憎悪に圧倒され
喉の奥で押し潰されていた一言が、
体の芯からりんを揺さぶって飛び出した。
 




 






 
「そんなこと、あなたに言われたくないっ!!!」









 
 
今まで誰も―――りん自身でさえ聞いたことのない、
彼女の慟哭だった。


 





























5へ

目次(犬夜叉SS)へ

*慟哭(どうこく)・・・ひどく悲しみ、大声で泣くことの意。

ここはりんの心情を表現した言葉として解釈してやって下さい(^p^)←逃げた

PR
   
Comments
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
Copyright ©  -- In The PAN --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by The Heart of Eternity / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]