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華、薫る
Objection!の合間に書いた殺りん小話第2弾。(いや、3?)

時期としてはりん幼少期。旅の途中です^^

短めですがよろしければつづきから是非~。


















































小柄な老妖怪の仕える主は、稀代の大妖怪の血を引いている。
 
犬の化生である主は鋭敏な嗅覚の持ち主であった。

その嗅覚と、他を寄せ付けぬ気質も相まり、他の臭いが纏わり付くことを非常に厭う主だった。
 









華、薫る








 
 
無謀にも歯向かってきた人間の野盗集団を瞬時に殲滅した殺生丸は、
平伏する邪見に一瞥もくれずに泉へと身を沈めた。
 
 
(人間どもの臭いが染み付いてしまい、ご不快なのだろう・・・。)

 
無言で沐浴する主を見つめ、邪見はそう推測する。

 
主は他の臭いを厭う。
 
数日前にも似たようなことがあった。
下賎な妖怪の返り血を浴びた主は、無表情ながらも不愉快そうな気を放っていて
側に控えている邪見を縮み上がらせた。
 
まして今日染み付いた臭いは、主の最も忌み嫌う人間のもの。
下手なことは言わず沈黙を貫くのが最上の手段であると、邪見は長年の下僕生活の中から学んでいた。

 
他と関ることが厭わしい。
触れられることは元より、臭いが纏わり付くことすら許せない。

 
邪見の仕える主は誇り高い孤高の妖怪だった。
 
そう、少なくとも、ほんの数ヶ月前までは。
 









 

 
「あ、殺生丸さま!おかえりなさい!」

 
主の帰りを待ちわびて出迎えるのは、あろう事か人間の少女。
邪見は深々とため息を吐く。

 
数ヶ月前、主はどういう気まぐれだったのか、狼に食い殺されたこの少女の命を呼び戻した。それも、あれ程無関心だった天生牙の力を以って。

主の腕の中で息を吹き返したこの少女は、それ以来ずっと後を追ってくる。
どうして妖怪と行動を共にしようなどと思えるのか。
何故恐ろしいと感じることなく、無邪気に笑っていられるのか。
実に不可解な少女だ。

 
そしてもっと不可解なのは主の態度である。
自身にとって利にならぬと判断すれば即座に斬り捨ててきた主が、最も忌み嫌っているはずの人間の少女の存在を何故か許容しているのだ。
 
何の力も持たない人間の小娘など捨て置けば良いものを。
 
何故主はこの少女の命を救ったのか。
何故この少女を連れ歩いているのか。
そして、邪見にとって最も理解しがたい事は――――。



 
「殺生丸さま、お花の冠作ったんだよ!」

 
りんという名の人間の少女は、にこにこ笑いながら花冠などという見るからに主と無縁の代物を差し出している。
当然ながら主は見向きもしない。
それでも少女は全く気に病むことなく、花冠のどこに力を入れたとか工夫を凝らしたとか、得意げに言葉を紡いでいる。

 
留守を待つ間、りんは花を編みながら「殺生丸さま、花冠被ってくれないかなー。絶対絶対、綺麗だと思うんだけどなぁ」などと言い出し邪見を卒倒させた。
 
怖いもの知らずもここまでくれば本物だ・・・とぼやく邪見の胸中も知らず、
りんは花冠を示してお喋りを続けている。

 
「殺生丸さま、お花って綺麗だよねぇ。」
「・・・・・・。」
「りん、お花大好き!見てるだけでにこにこしちゃうの。殺生丸さまは?」
「・・・・・・。」

 
お前はにこにこしながら花を摘んで冠を編む殺生丸さまを想像できるのか?と脳内でツッコむ邪見。
 
 
「色も綺麗だし、形も綺麗だし、匂いも綺麗だよね。」
「・・・・・・。」
「この花畑の中だったら、このお花が一番いい匂いなんだよ。ほら!」
「・・・・・・。」

 
少女の差し出した一輪の花。
僅かに顰められた主の表情に気付いたらしく、りんは手を引っ込めた。

 
「殺生丸さま、この匂い嫌い?」
「・・・・・・。」
「ごめんなさい・・・。」

 
しょんぼりと肩を落とすりんを見下ろし、殺生丸は何を言うべきか考える。
 
花の臭いは自分にとってはきつ過ぎる。
ひどく甘ったるい蜜の臭いに泥臭い土の臭いが混じり合い
お世辞にも快いものとは言えない。
花の咲き乱れる原など今まで近付きたいとも思わなかった。
 
しかし、この少女は花の香を喜ぶ。
色を愛で、形を愛で、その存在を嬉しがる。
 
理解しがたい感性と感情。

 
結局殺生丸は掛けるべき言葉を思いつかず、
代わりにりんから花を取り上げた。

 
「?」

 
顔を上げるりんの髪にそっとその花を挿してやると、
一瞬きょとんとしていたりんは、すぐに満面の笑みを浮かべた。

 
「殺生丸さま、ありがとう!」
「・・・・・・。」
「やっぱりこのお花の匂い好き?」
「・・・・・・。」
「りんもこのお花をつけてたら、いい匂いになれるかな?」
「・・・・・・。」

 
殺生丸の眉が再び顰められる。
 
いつも己の周りを飛び跳ねているりんの匂い。
幼子特有の甘ったるい匂いに、畑から食料を調達してきた時などは泥臭さも混じる。そう、りんの匂いは花のものに酷似している。

本来ならば花と同様、己にとって極めて不快なものであるはずのりんの匂い。
 
 
だが、その匂いが花の臭いに侵食されるのは不愉快だった。
 
 
「殺生丸さま?」

 
邪気のない大きな目で見上げてくるりん。

その髪には先程己が挿してやった花があり、
その手には花で作った冠が大事そうに抱えられている。
 
殺生丸は密かに嘆息した。

 
花の臭いなど不要。
りんだけが持ち得る陽だまりのように温かな気と香。
 
鋭敏な嗅覚を持つ己だけが感じ取っているだろうその匂いを確かめながら、
殺生丸は静かに言葉を紡いだ。

 
「お前は・・・そのままで良い。」
 






 

 
邪見にとって最も理解しがたい事は、
気難しい主が忌み嫌っていたはずの人間の少女を側に置いていること。

そして何より、あれ程他の臭いを厭わしがっていた主が、
少女の匂いだけは快いものと感じているということ。


























 


「りんの匂いだ・・・」

兄上のこの台詞は殺りんの殺し文句だと思うんです。(真顔

14巻とか27巻とか48巻をニヘニヘしながら読んでいたら
こんな妄想文が生まれました。楽しかったですv

読んで下さった方、ありがとうございます。

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